神童が背負うもの
モイーズ・キーン、19歳、FW
イタリアA代表で初得点をあげた時、
「KEAN」の文字を強調させた。
その意味は彼の物語を知ればわかるはず。
彼が背負うものとは。
モイーズ・キーン19歳。数々の最年少記録を持ち、「ユヴェントス、アズーリ(イタリア代表)の未来」と呼ばれている。バネのあるスピード、機会があれば必ずと言ってもいい程決める決定力、強いフィジカルからもたらす高いキープ力、そしてフィリッポ・インザーギ(ユヴェントス・ACミランなど)を彷彿とさせるような裏への抜け出し。FWに必要な能力の全てが19歳とは思えないような才能を持っている。経歴、ポジション、イタリア人である事、そして風貌から度々マリオ・バロテッリ(マルセイユ所属)と比較されている。
〜生い立ち〜
2000年2月25日、イタリア北西部ヴェルチェッリという小さな町で、両親がコートジボワールの地を引き、7つ上の兄を持つモイーズが産まれた。母のイザベレに、医師は「もう子供はできない」、そう告げられた4ヶ月後にモイーズを妊娠した。まさにモイーズが産まれる事は奇跡であったのだ。しかし、困難は続いてしまう。父が姿を消してしまったのである。イタリアの経済は厳しい状況であり、2人の子持ちのシングルマザーになってしまったキーン家は貧しい暮らしをしていた。この頃からモイーズにはサッカーしかなかったのである。
〜下部組織時代〜
地元や隣町のクラブアカデミーでキャリアをスタートさせた。2007年からは4年間トリノFCの下部組織に所属する。だが転機は突然訪れた。2010年に若き才能がユヴェントススカウトの目に留まり、ユヴェントスの下部組織に所属する事になった。それから頭角をメキメキと現し、大きな成長を遂げた。14歳の頃にはU-17まで上り詰め、イタリアユース代表にも選ばれ始めた。16歳の頃には、 U-19相手に怯む(ひるむ)ことなく、得点を量産し続け、注目され始める。ついには実力でトップチーム合流まで手繰り寄せることになったのである。
〜プロデビューと苦悩の2年目〜
2016年10月2日エンポリ戦に初のベンチ入りを果たす。そしてついに同年11月19日ペスカーラ戦、84分にマリオ・マンジュキッチに替わりプロデビューを果たす。観に来てくれた母と兄はその姿に号泣した。並々ならぬ想いがあったのだろう。まさに夢物語であった。11月22日セビージャ戦ではCL初出場を果たす。2000年以降生まれでは、初めてのCL出場を遂げた選手であった。2017年5月27日最終節ボローニャ戦では、同点で迎えた94分にセットプレーからのヘディングで決勝点をあげる。ユヴェントス史上2番目に若い記録であり、2000年以降生まれ(5大リーグに限る)で最も早い記録となった。まさに順風満帆で2016-17シーズンを終えることになる。2017-18シーズンは同じセリエAのエラス・ヴェローナにレンタル移籍される。ユヴェントス下部組織出身にとっては1番の試練だ。これまでに何人もの選手がこの壁を越えることが出来ず、ユヴェントスを去ってしまったのである。ヴェローナでミラン相手に2得点をあげるなど19試合4得点を記録するが、怪我もあり、納得のいかないシーズンを送ってしまう。
〜現在まで〜
2018年夏、国内外問わず移籍・レンタル移籍の噂が多く立ってしまった。だが、アッレグリ監督は彼の才能を信じ、ユヴェントストップチームに残す決断をした。しかし、クリスティアーノ・ロナウドやマリオ・マンジュキッチといったFW陣を擁するユヴェントスから出場機会を得る事は決して容易ではなかった。冬にはまたもや移籍の噂が立つほどであった。だがモイーズは決して腐ってはいなかった。ユヴェントスという環境で学ぶ事は多かったからだ。2019年1月30日、コッパ・イタリアボローニャ戦で初めてスタメンを勝ち取ると49分に得点、同年3月8日ウディネーゼ戦では2得点をあげ、少ないチャンスを物にし、大一番のCL1回戦2ndlegアトレティコ戦では途中出場できるほどの「戦力」として使われるレベルまで成長した。イタリアA代表に呼ばれると早速スタメン起用。フィンランド戦、続くリヒテンシュタイン戦で得点をあげ、衝撃を走らせた。久しぶりのアズーリを担うニューヒーローの誕生だからである。
最後に一言…
モイーズ・キーンが背負うものは、あまりにも大き過ぎる。ユヴェントスの未来、アズーリの未来、そして愛する家族。そしてこれから更なる壁が待ち受けるだろう。FW陣高齢化により、新加入や既存選手とのポジション争い、スランプや伸び悩み、そしてイタリア人に蔓延る(はびこる)差別問題。だが彼は今までいくつもの困難を乗り越えてきた程の強いハートが備わっている。苦しい時こそ自信を持って欲しい。そしてサポーターはまるで我が子のように暖かい目で見守ってくれるはずだ。結果が全ての世界。少ないチャンスを幾度となく物にしてきたモイーズならできる。
モイーズ・キーンならできるはず!!!
(著作:白黒コサック)